超低電力LSI設計技術開拓

CMOSアナログ回路は,定常的に電流を流して動作します.LSIの低消費電力化を実現するためには, 動作電流を極めて低い電流に設計する必要がありますが, オンチップで安定に微小な電流・電圧を生成することは困難であり, また回路システムに適用した場合,様々な課題が生じることが分かっています.

本研究室では,従来設計技術では困難であった,極めて低い消費電力で動作するアナログ回路設計技術の確立を目指しています. 図1に示す通り,マイクロワット以下の,ナノワットオーダーの極低消費電力でシステムを動作させ,これまでにない新しい回路設計技術の実現を目指しています.

図1:LSIの消費電力の動向.従来システムと比較し,3~6桁の低消費電力化を目指す

本研究室では,ナノワットオーダーの極低消費電力で回路システムを動作させるために,MOSFETのサブスレッショルド特性を活用する手法を推進しています.

MOSFETのサブスレッショルド特性は,ナノアンペアオーダーの微小電流で動作する特徴を持っています.図2にMOSFETの電流電圧特性を示しています.図2(中央)に示すように,電流を線形表示すると,しきい値電圧以下のゲート・ソース間電圧では電流が流れていないように見えます.しかし,図2(右)に示すように,同じ電流を対数表示すると,有限の微小電流(ナノアンペアオーダーの微小電流)が流れることが分かります.この電流をサブスレッショルド電流といいます.このサブスレッショルド電流を用いて回路システムを構築することで,マイクロワット以下の消費電力で回路システムを構成できるようになります.

図2:MOSトランジスタ(MOSFET)の電流電圧特性.電流を線形表示した場合と対数表示した場合の比較.線形表示した場合,しきい値電圧以下のゲート・ソース間電圧では電流が流れていないように見えるが,実際には微小なサブスレッショルド電流が流れている.

サブスレッショルド特性を利用した回路設計手法は,その魅力的な超低消費電力特性にもかかわらず,実用化が困難な技術としてみなされてきました.これは,LSIの製造プロセスのばらつきの影響が大きく,また強い温度特性を示す課題があるためです.LSIの製造プロセスは高度に進化していますが,完全にばらつきの影響を排除することはできません.また動作温度に応じて特性が大きく変化してしまうため,回路システムの性能が動作温度に応じて大きく変化してしまい,実用化の課題となっていました.

本研究室では,これらのばらつきの影響や強い温度依存性を解決する手法を提案し,数多くの研究開発を推進し,世界をリードする成果を挙げています.